コラム

「肝心なのは何を手に入れるかではなく、何を捨てるかなんだ」万代島美術館 写真家 ソール・ライター展 鑑賞の感想

先日まで万代島美術館で開催中の「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソールライター展」へ行ってまいりました。

ソール・ライターは1950年代からニューヨークで第一線のファッション写真家として活躍しながら1980年代に商業写真から退き、表舞台から姿を消しました。しかし2006にドイツの出版社から刊行されたカラー写真の作品集『Early Color』により83歳にして一躍注目を浴びる存在となり、以後世界各国で展覧会開催や出版が相次ぎ、多くの人々に知られる存在となりました。

「写真を見る人への写真家からの贈り物は、日常で見逃されている美を時々提示することだ」 そんな ことば から始まった今回の展覧会。時代順に展示してあります。

商業誌以外の作品は、ライターが住むイースト・ヴィレッジのアパートとその周辺の人々と風景。それも彼が撮りたいもの、その瞬間を取っている、という印象。被写体よいうより、その空気を収めているというか。人物ははっきりとせず、横を向いていたり、後ろ姿だったり、何かに隠れていたり。また、お好みのモチーフ、シチュエーションも何度も登場します。(この辺りは画家が同じモチーフの絵を何枚も描いた、というところに通じる気がします)傘、雪の中を歩く人、跨線橋の上から見下ろした俯瞰した風景、結露で曇った窓ガラス、雨粒、帽子、、、、隠し撮りのように(実際隠し撮りだったのか?)ふとした瞬間を見逃さずにシャッターを切る。

何の気なしのありふれた風景です。彼の視点を追ってゆくと自分まで当時のイースト・ヴィレッジの空気の中にいるようにさえ思えてきます。本当に何気ない写真すぎて自分でも撮れるんじゃない?なんて思っても、さすがに無理ですよ!きっとそんな人はジャクソンポロックの絵をみても同じことを言うでしょう。

彼の写真は、誰かに見せるために撮っていない。自分が美しいと感じたものを下心(という言葉は当てはまらないかも)なしで純粋に撮っている。例えば、数年前からの写真、インスタブームは見てもらうために撮っている(もちろん否定していません)のがほとんどに対し、彼の写真はあくまで画家が描きたいものを描くように、写真を撮っているように感じました。

ただ、今回の展示の中で私が最も興味を惹かれたのが、展示スペースの最後、親密だったであろう女性たちを撮った写真でした。(ほとんどヌード)ペライベート写真といえばそうでしょう。写真家として、男性として撮った写真。これらの作品の女性は緩んだ表情でこちらを見ています。もしくは顔を向けていなくても少しの意識をこちらに向けています。その親しみある表情とヌードがとても魅力的でした。

さて、その後「図録も良いけど、やはりヌードだ」と感じた私は沼垂商店街にある 写真集を中心にした新刊・古書を扱う本屋
BOOKS f3 へと向かい、「ソール・ライターのヌードに特化した写真集はないですか」 と。さすが店主、出してくださいました。しかも、日本で出版されているものとドイツのもの2種類。
見比べてみると分かります。ドイツ版の方が断然に良い。全く違う(お値段も違う) 紙、印刷、レイアウト、同じ写真を扱ってもこんなにも違って見えるものと、改めて職人業だなあと感心しました。

あとは店主と今回の展覧会の事、どの写真が良かったか、この写真家さんもお勧めですよ、同じ時代に活躍した写真家は別の切り口でこんな風に撮ってます、など写真のあれこれ、(店主の知識量...凄。)感覚で感じたのモノを語る時ってなぜ熱くなるんでしょうねぇ。

最後になりましたが、今回のタイトルにした「肝心なのは何を手に入れるかではなく、何を捨てるかなんだ」  ソール・ライターはファッション誌というきらびやかな世界を退き、隠遁生活の中で自分のためだけに作品を制作していきました。そして『Early Color』 創刊後も生活が変わることなく 毎朝起床すると絵を描き、カメラを持ってストランド書店まで散歩へ行く。散歩の途中でコーヒーを飲み、帰宅したら愛猫の世話を続けたそうです。

彼の人生の中で手に入れるもの、捨てるものは間違ってはいなかったのでしょう。そんな彼の生き方が、写真作品以上に、今の社会の中で共感されるのではないかと感じたのです。

 

次回の万代島美術館の展示は「ナニコレ!?びじゅつ アートいろいろ 見方イロイロ」2019年05月25日(土) ~ 2019年06月30日(日)

新潟県立近代美術館が所蔵している1945年以降の現代アートを中心に展示。こちらもなんだかとっても楽しそうな企画展です!

 

【併せて読みたい】

● 新潟市美術館『東郷青児展』鑑賞の感想→こちら

●【新潟絵屋】八木なぎさ展【絵のある生活】→こちら

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